1.カキの実と葉
カキは日本や、中国、韓国などアジアで広く自生または栽培され、古くから利用されてきました。実(果実)の甘いものは甘柿、そして渋いものは渋柿と呼ばれ区別されていますが、渋柿も脱渋することで甘くなるので、ともに 多くはそのまま、食用に供され、現在に至っています。
一方、カキの葉の利用は何時頃から始まったのかは定かではありませんが、わが国で 天保4年(1833年)に始まった大飢饉で 農民が食べ物に困り、一揆や、焼き討ちが頻発した頃に発刊(天保10年)された山本安良の「喰延食品」 のなかに“柿葉、春若葉を採りて、茹でて食うべし。この品。酒毒を消し、暑熱、口乾を止むる功あり“とあるので、実とともに葉を食用にした歴史は決してそれほど浅くはないものと思われます。
元来、カキは日本全国各地で育ち、特に庭木として植えられることが多く、実も葉も手軽に採取でき、且つその栄養価も高いので、古くからわが国では、飢饉や動乱などによって食糧不足に見舞われた時の栄養不足を補うための いわゆる 「救荒食品」の一つとして利用されて来た歴史があります。
2.“柿の葉タンニン”の 強い突然変異抑制作用と抗酸化作用
私たちが、カキの葉に注目したのは、実はその抽出物が強い突然変異抑制作用を持つことを世界で始めて見出したことからです。今から 約30年ほど前のことになります。その頃、豆腐に食品添加物(保存料)として使われていた ニトロフラン剤 (商品名トフロン、発癌性の疑いが出て使用禁止)や、魚や肉の焼け焦げに含まれる各種有機化合物(ヘテロサイクリックアミン)の突然変異誘起作用が明らかになり、一種の社会問題となっていました。当時、私達は、各種植物 約150種の 粗抽出物を用い、その突然変異抑制作用を調べ 早生次郎(甘がき)や、四つ溝(渋柿)などのカキの葉の租抽出物や、カキ渋タンニンなどに 強い抑制作用のあることを突き止めました(食品等動植物に含まれる抗突然変異因子に関する研究 文部省総合A 研究成果報告書)。その本体は 未だ不明ですが、分子量の小さいタンニン(“柿の葉タンニン”)が主役を占めているものと思っています。ここで興味のあることは、この“柿の葉タンニン”は、突然変異やがんを誘発する変異原に対して その作用を弱める力を示すだけでなく、変異原やがん原物質によって“傷つけられた”遺伝子に対して、その回復を助ける作用をも示すことです(図1.参照)。例えば、人が、強い紫外線 (変異原の一種) を浴びると、皮膚細胞の遺伝子に“傷がつき”、やがてそれは 皮膚がんに結びつくことが知られていますが、“柿の葉タンニン”は、そのリスクを低くすることが 予想されるのです。 紫外線だけではありません。上述の焼け焦げ物質のうちのあるものは、消化器にがんを起すことが知られていますが、“柿の葉タンニン”には、その作用に抵抗して がん化のリスクを低くすることが 推定されているのです。
“柿の葉タンニン”には また強い抗酸化作用があります。精神的あるいは肉体的なストレスによって、いわゆる“活性酸素や、フリーラジカル”が発生し、それ(酸化ストレス)によって、老化や、様々な循環器系疾患(心筋梗塞や脳卒中など)、炎症などが発生することが知られていますが“柿の葉タンニン”には、その酸化ストレスに対する強い抗酸化作用、抗変異原としての作用を通して、予防的に働くものと思われます(図1.参照)。
3.柿の葉に豊富に含まれるビタミンC(アスコルビン酸)の効能
元来、柿の実や葉には、他の果物や野菜類には見られないほど豊富にビタミンCが含まれており(図2.参照)、それが、上述の“柿の葉タンニン”と相加、相乗的に作用して 抗変異(抗がん)活性や、循環器系疾患のリスクを低めることが考えられます。実験室で、実験的に得られた結果では、ビタミンC単独の抗変異原としての活性は それほど高くなく、ことに“傷のついた”遺伝子を持つ変異細胞を正常細胞に戻す修復促進作用は あまり認められず、また、動脈硬化抑制の指標となる 低密度リポタンパク質(悪玉コレステロール)の酸化に対する抑制効果も、それほど高くはないのですが、“柿の葉タンニン”と共存すると、お互いの安定性が格段に増え、効果が発揮されます。
元々、ビタミンCは、抗壊血病因子として、発見(1928年、ハンガリーのSzent・Gyorgyi) されたものです。壊血病は、その字のとうり出血性の病気です。皮膚に紫斑や、点状の出血が見られ、また歯ぐきから出血し易くなり、ひどくなると鼻血や血尿がでるようになります。壊血病にかかると、筋肉の力が減退し、骨折し易くなります。骨にはカルシウムなどミネラルだけではなく、コラーゲンというタンパク質が多く含まれていますが、強くて 弾力のあるコラーゲンの生成のためには、ビタミンCが必須です。ビタミンCはまた、食事からの鉄の吸収を助け、鉄欠乏性の貧血を防ぐことでも知られています。風邪に対する抵抗力を増すと言うのも、生前、アメリカのポーリング博士(1901~1994年、ノーベル生理学賞および平和賞受賞者)が常に言っておられたことでした。ビタミンCには それ以外にも、人の健康に対し、また美容の面でも、様々な効果、効能を持つことが明らかになっています。
既に述べましたが、ビタミンCは、柿の葉には、かなり多く含まれていますので、古く、その積極的な利用が 西式健康法の創始者、西 勝造先生(1884~1959年) によって計られました。そして、四国の山中に育つカキの樹から採取した 無農薬の柿の葉100%を使用したお茶(「柿茶」)の製品化が行われてきました。約60年という長い年月の間に、数々の改良が加えられ、今、市場に出ているのが (有)生化学研究所(井上信幸社長)の 「柿茶」や、「アスミン」です。前に述べましたが、柿の樹は全国いたるところで、特に庭樹としても植えられており、その葉は容易に採取できますので、家庭で手軽に、お茶にして飲まれることも良いと思います。その方法については、別項を参考にして下さい
4.柿の葉のバイオフアクター(健康機能因子)とミネラル
柿の葉に含まれているのは、勿論、上述の ”柿の葉タンニン“や、ビタミンCだけではありません。ビタミンについては、ビタミンC以外にも、多くのビタミンが含まれています。また、ビタミンの範疇には入っていませんが、健康に、非常に役立つ因子が、含まれています。それは、フラボノイド(“柿の葉フラボノイド”)と呼ばれるものです。
“柿の葉フラボノイド”の中で特に注目されるのは、アストラガリンと、イソクエルシトリンで、これらにはともに、抗酸化作用や、 降圧作用があります。前者は、ケンフェロールの、また 後者は、ケルセチンの配糖体です。ケンフェロールは、ブロッコリーや、春菊、レタスに多く含まれることが知られ、また、ケルセチンは ほうれん草やキャベツのほか、セロリや、そばや、たまねぎなどに多く含まれていることが知られています。欧米の食生活では、特に、たまねぎが多く利用されますが、ケルセチンは、摂取フラボノイドの主要な成分として知られています。ケルセチンについては、循環器系疾患の予防効果について 非常に多くの研究報告があります。また、最近の研究では、ケルセチンは遺伝子DNAに作用して、過酸化物を分解する酵素の生成を誘導、発現を促し、解毒を促進することがわかって来ました(図3.参照)。日常的に、様々な環境化学物質を摂取したりしている私達にとって、毒物を代謝、分解して対外に排出することは極めて大切なことです。
昨年、私達は、柿の葉にはCoQ 10が多く含まれていることを見出しました(神戸学院大学 紀氏健夫教授との共同研究)。CoQ 10は、体内で作られ、ビタミンではありませんが、呼吸活動に必須の因子で、抗酸化力が強く、年とともに体内での量が減少するので、
若さを保つ上で常時補給することが 大切と言われています。
柿の葉には、また、ビタミンAの前駆体であるベーター・カロテンなど。カロテノイドも多く含まれています。勿論、マグネシウムやカリウムなどのミネラルも豊富に含むことも、忘れてはなりません。
5 柿の葉のお茶は いわゆる“ノンカフェイン飲料”
普通、お茶と言われるお茶、例えば 緑茶や、ウーロン茶、それに紅茶などにはカフェインが入っています。コーヒーもそうです。そして、これらはすべて“カフェイン飲料”とよばれ、カフェインが含まれているために、体が“しゃん”とし、また 習慣性がつくため、非常に古くから飲まれ、また飲み継がれて来ました。
カフェインは、ある意味では、アルコールやタバコに似ていて、軽い興奮をもたらします。これは、カフェインが 脳の神経細胞の表面にある アデノシン受容体に強く結合するためです。本来は、アデノシンが結合して、ブレーキ役を果たし、興奮が収まるはずなのですが、カフェインが入ってきて、それを邪魔し、興奮を続けさせるのです。一方、カフェインは、主に肝臓で代謝されるので その代謝能の高い成人の場合には あまり問題にならないのですが、その活性の低い子供や、お年寄りでは、代謝が遅く、興奮作用が持続して寝つきが悪くなると言う弊害が出てくることがあります。実は、その弱点を克服するために作られているのが、カフェインの少ない、いわゆる“カフェインレス飲料”です。これらの飲料では、製造の工程で、コーヒーや、お茶飲料で、カフェインを少なくする技法が利用されています。その点、柿の葉には、もともと カフェインが全く含まれていないので、それから作られた「柿の葉のお茶」は、当然、ノンカフェインであり、子供やお年寄りにも優しい飲料と言うことができます。
6.柿の葉がもたらす 大いなる自然の恵み
既に述べてきましたように、柿の葉には 多くの機能性成分が含まれています。それらは、元来、カキの樹が健全に育ち、子孫を残すために、樹の体内で作られているものですが、ヒトを含む動物の健康を守る上でも、たいへん多くの役割を果たしていると言えます。
柿の葉が、私達 ヒトに与えてくれる力、それは 一つ一つの機能性成分でなく、その総合力です。総合力は、ある場合には 足し算として、またある場合には 掛け算として働き、人の健康を支えてくれることを忘れてはなりません。
野球の選手が9人で、夫々の技能を生かしながら、守りの場を固めている姿を、思い浮かべてみると良いのかも知れません。柿の葉から作られたお茶には、その飲用を続けることによって、全体として、“心身のゆがみ”を正し、元どうりの健康な体にする、矯正効果・効能が期待できると思われます。
平成21年5月17日 柿茶一筋60年 記念講演会 (坂出健康会館) より
静岡産業大学O―CHA学センター顧問 静岡県立大学名誉教授 薬学博士 富田 勲先生 がお話しされた内容です。
※柿茶は柿茶本舗有限会社の登録商標です。