1.激増する糖尿病患者
いま糖尿病の人が890万人、糖尿病予備軍の人が1320万人いると言われている。合計すると2210万人にも上る。どうしてこんなにも増え続けているのだろうか。医学が進歩したといっても、糖尿病も治せない、動脈硬化も治せず、心臓の冠動脈にカテーテルを通して、網目状のステントを入れて、なんとか生命を維持させている実情を見るにつけ、どこかおかしい。
2.何故糖尿病患者が増え続けるのか
答えは簡単である。糖尿病を根治させる薬が今でもないからである。1921年にカナダの開業医のバンティングとベストという助手が犬のランゲルハンス島から膵臓エキスを抽出し、瀕死の14歳の糖尿病の少年に注射し、命を救ったのがインスリンというホルモンの使用の始まりだった。それはバンティング・ベストの奇跡として、永遠に名を残し、ノーベル賞を受賞したのだった。インスリンホルモンが人工的に作られるようになってからは、当時これからはもう糖尿病患者はいなくなると、言われたものだったが、どっこいその考えは甘かった。そもそも生活習慣病といわれる糖尿病にしろ、動脈硬化症による高血圧症にしろ、高コレステロール症にしろ、症状を緩和する薬は有っても、根治させて、もう治ったから、薬を飲む必要はないですと、医者から言われた人がいないことは、皆さん周知の事実である。これらの病気はみな間違った生活習慣が招いたものだという事実を容認すべきなのである。
3.糖尿病とは
糖尿病には二種類あり、Ⅰ型糖尿病は、何らかの理由で、膵臓のランゲルハンス島のベータ細胞が破壊されてしまい、全くインスリンが分泌されないために起きる病気で、自己免疫やウイルス感染が関係すると言われている。若い人に多く、日本で年間500人位発症する人がいるが、インスリン注射によって、普通の人とさほど変わらない生活をすることが出来る。
一方Ⅱ型糖尿病はおもに過食等の生活習慣が原因で、徐々に発症するもので、膵臓のインスリン分泌機能が完全にダメになったわけではないが、不足気味になったり、その働きが悪くなったために、高血糖値になるものをいう。昔から、経験的に食べ過ぎや肥満が関係していることは気付いていたが、病気の進行を止める術もなく、ゆっくり死を待つしかなかったのである。
4.糖尿病の病態とは
ここから以降は全てⅡ型糖尿病について記述する。我々が毎日の食事で摂るご飯やパン、芋などの糖類は胃腸で消化、吸収されて、ブドウ糖となるが、いったん肝臓にグリコーゲンとして貯蔵されていて、血糖値が下がってきたり、体を動かして大量にエネルギーを必要としているときに、またブドウ糖に分解されて、血液中に放出されるという万全のシステムが出来ている。
そして膵臓から分泌されたインスリンの助けを得て、血液中のブドウ糖が細胞膜を通過して、細胞内でエネルギーに転換されて、活動エネルギーの源となる。
ところが糖尿病になるような人には、次の二つの原因が考えられるのである。
その1・・・インスリンの分泌量が不足しているために、ブドウ糖が細胞内に取り込まれない。
その要因としては、長年の過食で膵臓が疲弊してしまった。或いはストレスを受けて、交感神経が亢進し、膵臓を痛めつけ弱っている。こんな状態ではインスリン不足で、いつまでも血液中にブドウ糖が溢れていることになる。
その2・・・インスリンは分泌されるが、何らかの原因で、ブドウ糖が細胞内に取り込まれず、血液中に取り残されてしまう。これをインスリンの感受性の低下とかインスリン抵抗性という。そもそも細胞膜にはブドウ糖が流れてきたら、それをキャッチして、取り込もうとするブドウ糖トランスポーターというセンサーが働く。もうひとつ細胞膜には、インスリン受容体があって、ブドウ糖をキャッチしてくれる。しかしこれらがスムースに機能してくれないと、ブドウ糖は細胞内に入れないのである。その原因としては体内に脂肪組織が増える為だという。太った人が糖尿病になるのはそのせいである。しかし明確な原因はまだつかめていない。
細胞内に取り込まれたブドウ糖はエネルギーとして使われる以外の余分なものは、体内脂肪となってしまうし、細胞内に入り込めなかったブドウ糖は尿と一緒に体外へ捨てられてしまう。
糖尿病患者の末路は、体がだんだん痩せて行くのは、ブドウ糖をエネルギーとして、体内に取り込めないからである。
5.糖尿病の診断に使われる血糖値とは
通常血液100mlあたり70~110mgの範囲で一定に保たれている。健康な人は食後でも最高値は180mg程度に抑えられていて、食後2時間も経つと、元の値に戻る。糖尿病の診断が下される血糖値は、
★朝の空腹時 正常値は100mlあたり110mg未満。糖尿病は126mg以上。糖尿病予備軍は110~125mg。
★75gのブドウ糖を飲み、2時間後の糖負荷試験の場合 正常値は140mg未満。糖尿病は200mg以上。糖尿病予備軍は140~199mg
★ヘモグロビンA1c(これは赤血球のヘモグロビンにブドウ糖の結合したものの割合をパーセントで表したもので、過去2~3カ月の平均的血糖値を知ることが出来る。)
ヘモグロビンA1c(HbA1cと表示) 正常値は4.3~5.8パーセント。この基準も時々変わる。
6.糖尿病の治療方法
1)現代医学での一般的な治療法
★食事療法・・・そもそも発症の最大の原因が食べ過ぎにあるから、糖尿病と診断されたら、病院で講習を受けて、その指導書に基づく食生活を実行することになる。総摂取カロリーやら、食品の種類、量など守らないといけない。
★運動療法・・・発症の二番目の原因が運動不足によるエネルギーの過剰とみなされている。
これも病院からの指導を受ける。
★薬物療法・・・その人の体質やその程度などを考慮して、医者が判断して決められるが、経口経血糖降下薬の主なものは、
・インスリン分泌促進薬で、膵臓に作用してインスリンの分泌を促す。
・グルコース吸収遅延薬で、小腸粘膜に作用して、糖の消化を抑制して、吸収を遅らせて、食後の高血糖値を抑える。
・インスリン抵抗性改善薬で、インスリンは分泌されていても,インスリンの効きが悪い状態を改善する。
2)医薬に頼らない治療法の数々
漢方薬によるもの、運動療法によるもの、食事療法によるもの、民間療法など幾つもあるが、
現代医学を習得した医者でありながら、独自の治療法を確立して、実績をあげている治療法
もある。その内、次の二つを紹介する。
★「糖尿病には薬は要らない」森田トミオ著、宝島社発行、著者はフリージャーナリスト。西式健康法の渡辺医院の故渡辺正博士、お茶の水クリニックの森下敬一博士、甲田医院の故甲田光雄博士の治療法など記載している。
★「糖尿病は薬なしで治せる」渡邊昌著、角川書店発行、著者は慶應義塾大学医学部客員教授。
自分自身の重度の糖尿病を薬なしで治した体験と糖尿病に関する医学情報を網羅している。
7.グリセミックインデックス(GI値)とは
食品によって食後の血糖値の上がり方に差が有るから、特に糖尿病の人は、血糖値が直ぐ上がるものは最初に食べないで、後回しにするなどするとよいという考え方が有る。
白パンを食べた後の血糖値変化を100として、それに比べて各食品の血糖値の上がり方を、パーセントで表示している。確かに白米に比べて、玄米や全粒粉は相当低いし、食物繊維の多い物も値は低い。ただこの数値は2~3時間の間の測定値を基に作られていて、4~5時間後に急激に血糖値が上がる食品もあり、これにこだわり過ぎるよりも、総量を減らすことが大事。
これに関連して血糖値スパイクという事が言われだした。これは一言で言うと、食後急激に血糖値が上がるような人は、食後眠気をもよおしたり、集中力を欠いたり、糖尿病になり易いとか言われるが、これも結局食事の在り方を改善することが必要。
8.糖尿病の合併症
今では健康診断制度が普及していて、誰でも年に一度位は医者で血糖値を測ってもらえるから、自分の血糖値がどれくらいか知っている筈である。
しかし医者から警告を受けても、初期の段階では、何も体の異常を感じないから、酒は美味いし、食欲はあるし、体のどこも痛くも痒くもないから、油断してしまう。ところが体内では深く、静かに病状は進行しているのである。糖尿病は一過性の病気ではないから、深化して悪化してゆくだけである。
ではどんな症状が出るか、初期から重度の症状、合併症までをランダムに列挙すると、
- 体が痒い、●傷の治りが遅い、●歯茎が浮いて歯周病で歯が抜ける、●首の後ろぼんのくぼに、赤い湿疹が出る、●手足が冷える、●顔の皮膚が白い粉を吹く、●のどが渇く、●頻尿になる、●尿が泡立つ、尿量が多い、●汗が香ばしく酸っぱい臭いがする、●目の網膜に眼底出血など異常が出る、●足がしびれたり、痛い、●インポになる、●腎臓から蛋白が出る、●足の神経感覚が鈍る、●体重が減ってくる、●食欲が増進する、●甘いものが食べたい、●動脈硬化になる、●血圧が上がる、●体内のタンパク質と糖分が結合して、終末糖化産物(AGE)が生成されて、老化を早めて、シミやシワが出来る、●体がだるい、●てのひらが赤っぽい、●顔のこめかみの下が腫れている、●壊疽になる、●免疫力低下し、肺炎など感染症にかかりやすくなる、●脳卒中や心筋梗塞の危険性増大、●水虫になりやすい、●かみそり負けする、●コムラ返りなど。
これらの症状や病気に共通している病根は何かと云えば、毛細血管などの血管に欠陥が出たからである。血中に糖分が多いと、毛細血管が溶けて消失する。そして大きい血管も随時ダメになってゆく。そして動脈硬化が進むと血管の内壁にカルシュウムが沈着することが起きることも有る。所謂石灰化である。すると益々血管が狭窄化して、心筋梗塞が起きやすくなる。血液中に酸性の糖分が多いと、体の恒常性機能がそれを中和しようとして、骨からカルシュウムが抜けて、血液の中に出てくるからである。骨自体もこの現象に加えて、骨芽細胞の再生能力の低下やカルシュウム摂取量の不足が重なって、骨粗しょう症に気を付けねばならない。
9.根本治療とは何か
1)食事の改善
大食が原因であるから、少食にする。しかし既に糖尿病になってしまった人には、これだけでは改善しない。毛細血管を再生しなければならないから、お薦めは前述した本に掲載されている西式甲田療法である。即ち朝食抜きの二食で、玄米と生野菜汁中心の少食自然食である。そして西式の健康体操をする。水分補給はビタミンCが豊富な柿茶を飲み、血管強化する。
2)運動療法
前述の渡邊昌先生の本に詳しく、何故運動しなければならないかを実体験をもとにして、詳述しているから、読まれるとよい。ただ余分なカロリー消化させるだけではなく、新陳代謝活発化、そしてインスリン感受性を高めるのである。それには散歩などよりも自彊術がよい。
というのは、前自彊術協会の会長をしていた故近藤芳朗博士は東京大学医学部を出て、母校の内科の講師まで務めた人であるが、中年になって糖尿病に罹り、それを自彊術を知り、実行したところ、快癒してしまったのである。そしてこんな素晴らしい健康体操をもっと世間に広めたいと、活動を起こした。現在全国で55000人の人達が、教室に通い体操している。
勿論糖尿病が治ったという体験談も多い。家の中で15分もあれば、手軽に、簡単にできるから、試してみたらよいと思う。
3)-精神的支柱の確立
酒に溺れ、食欲に負け、怠惰になり、進取の精神に欠け、ただひたすら医者や薬にすがりつく姿勢を改めない限りには、健康は取り戻せないだろう。何事も知ろうとしないのは退歩の始まりである。自分の健康は自分で守るという信念を持ち、自己管理を貫く姿勢が大事。
10.糖尿病治療薬の副作用
どんな薬にも多かれ少なかれ必ず副作用が有る。
★グルコース吸収遅延薬では、低血糖症状、腸閉塞症状、肝機能障害、おなかが張る、下痢、便秘など。
★インスリン分泌促進薬では、疲弊した膵臓にムチ打って、分泌を促すわけだから、そのうち段々出なくなってしまう。決して膵臓の働きを回復させるわけではない。副作用も低血糖、貧血、肝障害、白血球減少などある。
★インスリン抵抗性改善薬では、黄疸、肝障害、浮腫など。
★肝臓からのブドウ糖の放出を抑える薬がある。低血糖、消化器障害、倦怠感、筋肉痛、など。
★最近使われだした新薬「SGLT2阻害薬」がある。インスリンの分泌を促す従来の薬とちがい、尿中の糖を体内に吸収させるたんぱく質の働きを邪魔し、体外に出して血糖値を下げる。利尿作用があり、体重を減らす効果もあるとして注目されている。国内で6製品が販売され、専門家によると10万人以上が服用していると推定される。ところが朝日新聞が各社の調査を集計したところ、約3700人で約4800件の副作用報告があった。うち重篤なものは皮膚障害、尿路感染症、脱水症など630件で、10人が死亡していたという。
これらの薬は決して膵臓の機能を回復させるものではない。ひたすら血糖値を下げる働きだけである。これら薬を服用していても、糖尿病は進行してゆくことを知らねばならない。そして最後の手段として使われるのが、インスリン注射である。
11.あまり知られていない糖尿病によい話
★有名な食事療法家の東城百合子の「自然療法」という本によれば、240ページの糖尿病という項目に書かれていることは、・・・糖尿病の根本原因は、肝機能が参ってしまって、糖の貯蔵調整がうまくできなくなった為である。肝臓が弱っていると、グリコーゲンとして蓄えることが出来ないから、調整が出来ずにいると、膵臓も繋がっていて、働きが弱る。だから先ず肝臓を強くすることが先決である。ご主人様の傲慢で、出鱈目な、間違いだらけの負いきれない負担を、無理やりに背負わされる下僕の内臓こそ哀れであると。絶対君主であってはいけない。体の悲鳴に耳を傾けよう。
★同じような話は西式健康法の西勝造先生の本にもある。即ちどれだけ大食、美食していても、肝臓の強い人は動脈硬化型になり、弱い人は糖尿病型になると書いている。
★糖尿病に良いという食べ物は沢山あるので、参考までに列挙すると、
- 玄米に小豆を入れたごはん、●小豆とコンブとカボチャの煮たもの、●生のタマネギ、●食物繊維の多い物、●ミネラルのひとつのクロム、亜鉛、●苔のひとつシメジ、●ビタミンCの多い柿茶、●五種類以上の生野菜ジュース、●タウリンが糖代謝によい、
★毛細血管と付属のグローミューというバイパスの再生のためには、毛管運動は欠かせない。
★骨格の矯正。糖尿病になる人は、胸椎の11番に異常が有る。胸椎の8番と9番の右圧痛。
12.まとめ
1)日本人の1万年前からの生存過程では、飢餓の連続であったが故に、遺伝子に刷り込まれてい
るのは、飢餓に強い体内システムが出来上がっているということ。ところが飽食の時代に入る
と、過剰摂取糖分を処理するシステムが体内にはないが為に、糖尿病が増えてきたのである。
2)糖尿病は一部遺伝するというが、それでも諦めずに努力すれば、体質を変えられると思う。
3)糖尿の人が食べてはいけないものは、脂肪酸の多い肉類、揚げ物類、マーガリンやショートニ
ングのトランス型脂肪酸はインスリンの働きを低下させる最悪の食品である。
4)糖尿病の人は普通の人より10年寿命が短いという。血管がダメになり、新陳代謝も悪いから、
ガンにもなり易い。認知症には普通の人より3~5倍なり易い。正に万病の元である。
5)面白い事に、死亡原因の統計を見ても、死因に糖尿病という名前が出てこない。何故だろうか。
統計上の死亡原因は糖尿病の合併症で死ぬから、その病名で載っているからである。
6)私は健康法に関心を持ってから、もう何十年も幾多の人の生き様と死に様を見てきたが、つく
づく思うことは、「人は生きて来たようにしか死ねない」ということ。
7)最近医学界で言われ出したことは、糖尿病は予防する時代になったという。1年に一回健診を
受けていれば、初期の段階で発見できるのであるから、その段階で適切な対応策を講じれば、
治癒することも可能である。必要なのは、これではいかんぞと、慢心し、続けてきた間違った
生活習慣を断ち切る大英断である。
8)ひとつの情報だけで、物事を決めてはいけない。特に命に関することは、慎重を期したいものである。もっと知ろうとする求める心を持たない者には、明日の健康は付いて来ないのではなかろうか。いつも思うことは、私ならこうするのにとなあ。無知は死を招く。
9)先月に糖質制限食について、詳細説明したので、あえて今回記述しなかった。ところがこの記事を執筆中に、文藝春秋五月号が発売された。その中に前に取り上げた「日本人の体質」の著者の医師奥田昌子博士が「日本人は糖質を制限するな」という記事が掲載されていた。その内容を要約すると、日本人は昔から食事の80%を炭水化物で摂っていた為、インスリンの量が欧米人に比べて半分以下の量で賄える体質だっが、1960年代以降に脂肪の摂取量の増加と共に、糖尿病が増加の一途を辿っている。そして内臓脂肪が増えると、インスリンの働きを悪くする悪玉物質のTNF-αを分泌する。だから糖質制限よりも脂肪摂取を控えるべきだと。因みにTNF-αは血圧を上げ、動脈硬化を促し、血液を固まりやすくする悪玉物質なのでもある。
おわり